月影の月、竜の近づく日、碧の曜日/379年
今日は“ルランシュ・ル・クルーセ”だ。
エルフの言葉で「終戦日」という意味らしい。
今まで知らずに使っていたけど、今日新しく出来た友達に教えてもらった。
新しく出来た友達と言うのは、近くの森に住むエルフの少年のことだ。少年といっても、僕よりもずっと年上なんだけど。
名前は“ノーヴェン”。エルフには珍しく、よく日に焼けた銅色《あかがね》の肌をして、綺麗なブロンドで、緑色の瞳をしている。彼には妹がいて、妹の方は透けるような白い肌に、ノーヴェンと同じく金髪《ブロンド》と緑色の瞳を持っている。人見知りするタイプらしく、ノーヴェンの後ろに隠れてばかりだった。でも、とてもかわいい子だ。
話を“ルランシュ・ル・クルーセ”に戻そう。
今日はエルフの長老の話を聞くことが出来た。
“ルランシュ・ル・クルーセ”にエルフ達が村にやって来るのは毎年のことだけど、エルフの長老の話が聴けたのは今年が初めてだ。エルフの長老は、何だか体が透けているように見えた。そう言うとノーヴェンは笑って、エルフが今の姿になる前の、精霊に近い体をしているからだ、と教えてくれた。僕には精霊を見ることが出来ないから、ピンと来ないけど、精霊の話をするときのノーヴェンの表情がとても優しかったから、彼らエルフにとって、かけがえのない大切なものなんだと思う。そういえば、父さんからエルフは精霊を召喚して使うと教えてもらったことがある。その時に、エルフにとって精霊は家族のようなものなんだって、一緒に教えてもらったっけ。
エルフの長老の話は、人間が憶えていない程、ずっと昔にあった大戦の話だった。人間とエルフがまだ憎みあっていた頃、大きな戦争があったらしい。
その戦争は長い間続き、沢山の人が死んだ。エルフも沢山死んだ。人間やエルフ以外の種族(ドワーフや動物など)も沢山死んだんだそうだ。それでも、人間とエルフは戦争を止めなかった。何故かは判らない。エルフの長老は、誇りが戦争を止めさせなかったのだと言っていた。どういう意味だろう? 父さんにこの話をしてみると父さんも頷いて、プライドや意地がその大戦を終わらせなかったのだと、一人で納得したように言っていた。父さんもエルフの長老も、いろんなことを知っているのはすごいと思うけど、もう少し子供にも判るように話して欲しい。それとも、自分で考えろってことなんだろうか?
話が逸れてしまった。大戦の話だ。
その大きな争いを止めたのは、たった一人の人間と、たった一人のエルフだった。つまりエルフと人間の二人組みだったんだ。
どうやって止めたのかは聴けなかった。実は、ちょうどその時に母さんに呼ばれて、席を外してしまったんだ。いそいで戻ってきたときには、もうその話は終わっていて、エルフの長老は「二度とあのような争いは起こしてはならない」と話を締めくくっていた。ノーヴェンに尋ねてみたけど、判らないと言っていた。話は聴いたけど、判らなかったんだって。どういうことだろう? 今日は判りにくいことばかりだ。
今日は随分と長い日記になってしまった。
でも、もしかすると明日のほうが長くなるかもしれない。明日はノーヴェンの住む森の近くで、ノーヴェンと遊ぶ約束をしているんだ。きっととても楽しいだろう。
ノーヴェンともっともっと仲良くなりたい。だって、せっかく出来た友達だ。くわしいことは判らないけど、エルフと人間の争いを止めた二人も、親友同士だったらしい。ノーヴェンともそれくらい仲良くなれたら嬉しいけど。
とにかく、今日はとても充実した一日だった。
明日はもっとステキな日になりますように。
おやすみなさい。
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