出会い[散文100のお題/40.あやかし]
小さなものが落ちてきた。
天井から落ちてきて、俺の頭にぶつかって、机の上に転がった。
丸い顔があって、細長い体がある。手足も生えていた。頭には紅い髪と、黄色い棒のようなもの。角だろうか。
どうやら、人間の言葉を喋れるらしい。そいつは自分のことを「あやかし」だと名乗った。
あやかしってのは、妖怪のことじゃないのか。
そう尋ねたら、そいつは頷いて、自分はあやかしのあやかしだと言った。
つまり、あやかしという名前の妖怪らしい。
何てややこしい。
そもそも、妖怪なんているのか?
そう思うのだが、片手の平に乗るくらいのサイズの人型の生物がいるはずがない。
小人…?
「手乗りあやかし」か。
妖怪っていうと、もっと、こう、恐ろしいものだと思っていたのだが。
そいつは今、俺の鉛筆で遊んでいる。とても害があるとは思えない。
おまけに、どうやらそいつはここに居座るつもりらしい。
寝床を要求しやがった。
無視していると、勝手に俺のタオルを寝床と決めたらしく、その中で丸くなった。
………あやかしも、夜に眠るのか。
さて、どうしようか。
このまま捨ててしまうか?
それとも天井裏に戻そうか?
それとも、しばらくここに置いてやるか?
ふあ、とあくびが出る。
気づけば、そろそろ日付が変わろうとしている。
とにかく寝よう。
そいつの処分は明日考えるとして。
とりあえず、俺が目を覚ますまでは、ここに置いてやることにする。
興味[散文100のお題/41.しせん]
視線を感じる。
誰のものかは分かっている。
誰、と言うより、何、と言ったほうが正しいか?
視線の主は、今、俺の後ろでぬいぐるみと格闘している小さな生物だ。
あやかし、という名前らしい。
最近、俺の部屋の天井から落ちてきて、そのまま居座ってしまった。天井裏に戻したり、捨ててみたりしたのだが効果はなかった。学校から帰ると、必ず机の上で俺を待っている。まあ、そんな訳で、アイツを追い払うのは諦めた。
ソイツは今、ぬいぐるみと格闘しながら俺のほうをちらちらと見ている。どうやら、かまえ、ということらしい。
俺が無視しているとふて腐れたように、寝床にしているタオルの上で丸くなった。ふて腐れたよう、というか、ふて腐れているんだろう。
まったく、人間にかまって欲しいなんて、どんな妖怪だ。
そういえば、こいつは何という種類の妖怪なんだろう。角があるところを見れば、鬼か? しかし、角のある妖怪なんて沢山いるから、そうとは限らないかもしれない。というか、人懐っこい鬼なんて「泣いた赤鬼」だけで十分だ。
尋ねてみると、おいらはおいらだ、と胸を張って答えやがった。
…お前、自分でもよく判っていないんじゃないか?
もしかすると突然変異種なのかもしれない。それで他の妖怪達から迫害されて、ここに来たのか?
まさかな。第一、何故俺のとこなのかが判らないじゃないか。
とりあえず、調べてみるか。
まあ、あいつがナニモノでも俺には関係ないんだが。
気になるといえば、少しだけ気になるだけで。
本当に、ほんの少しだけど。
発覚?[散文100のお題/43.パンドラの箱]
あやかしと名乗る、手乗りの人型生物は、まだ俺の部屋にいる。
何という種類のあやかしなのかは、調べても判らなかった。
魑魅魍魎の一種なんだろうか。
何処から来たんだと尋ねてみる。
ぱ…何とかの箱からだと、自信満々に答えた。
そんなに自信満々に答えるんなら、せめて箱の名前はきちんと言えてくれ。
初めに「ぱ」のつく箱……。
ぱ…パ……パイナップル…じゃないよな。パイナップルの箱って収穫されてきたのか、コイツは。
パラライザー…は箱じゃないな。
あとは…パンドラの箱か?
消しゴムに噛り付いて顔をしかめていたソイツに、確認する。
頷く。
そうか、コイツはパンドラの箱から来たのか。
じゃあコイツは西洋の生き物ってことか? あ、でも「ゲゲゲの鬼太郎」にもパンドラの箱は登場したな。それとも「悪魔くん」だったかな?
と言うか、パンドラの箱って実在するんだな。
確かパンドラの箱って、災厄が詰まっている箱だよな。開いたら災厄が飛び出してきて…
ん?
ちょっと待て。
と言うことは、コイツは災厄の一つじゃねえか!?
こんなナリで災厄!?
考えられない。
あ、パンドラの箱には災厄以外にも、希望が入っていたんだっけ?
コイツが希望……。
それも、ありえねえ。
…………まあ気にしないことにしよう。
パンドラの箱出身ってのも、コイツの勘違いかもしれないし。
発見[散文100のお題/66.ミルクティー]
俺はミルクティーが好きで、よく飲む。
最近気づいたのだが、実は、あやかしもミルクティーを好きなようだ。
とはいえ、飲むわけではない。そもそもコイツは、ものを食べないのだ。どこか俺の知らないところで食べているのかもしれないが。
話を戻そう。
あやかしは俺が紅茶を入れているときに必ず寄ってくる。
興味津々といったふうに俺の手元を覗き込んで、ミルクは、と尋ねる。
ミルクを入れると、その様子を面白そうに見ている。
どうやら、ミルクを入れるときにミルクが白い渦を描くのを見るのが好きなようだ。
子供がコーヒーのCMに反応するのと同じか。
ミルクを入れずにプレーンで飲むときもあるが、そのときは、近づいて損したと言わんばかりの態度で去ってゆく。
何でお前は、そんなに態度がでかいんだ。
いや、態度がでかいのは初めからだが。なんせ初対面で寝床を要求したやつだからな。
とにかく、そのミルクティーを飲めよなーというような顔をやめろ。
いいじゃないか。
たまにはプレーンで飲みたいんだ。
好き嫌い[散文100のお題/89.ココア]
あやかしのことで、最近判ったことがある。というよりも、気づいたことがある。
あやかしは、どうやら、ココアが嫌いなようだ。
いつもはチョロチョロとうざいくらいだが、俺がココアを飲んでいると、姿が見えなくなる。
ココアのような甘いものは好きだと思ったんだが。それとも、生体的に受け付けないのだろうか。
いや、待てよ。俺はあやかしにココアなんて飲ませたことはないぞ。
…じゃあ、単に香りがダメなのか?
というか、何て面倒臭い生き物なんだ、アイツは!
面倒臭いというか、贅沢だ。そもそも、妖怪ってのは銀とか鉄とか香水の香りとかを嫌うものじゃないのか?それなのにアイツは、鉄も銀も香水も平気ときている。なのに、ココアは嫌いとは。
アレか? ココアから、何かアイツが嫌いなオーラでも出ているのか?
というか、そもそもアイツは姿を消すときに何処に行っているんだ? 天井裏か? それとも外に出ているのか? はたまた、特殊能力で姿を消しているのか? いや、それ以前に、アイツに特殊能力なんてあるのか?
…というか、何だって俺はアイツのココア嫌いについて、こんなに考え込んでいるんだ?
馬鹿馬鹿しい。
アイツがココアを嫌いだろうが、どうだっていいじゃないか。
アイツはココアが嫌いなんだよ。それだけだ。
……でも、アイツ、何故かチョコレートは好きなんだよな。
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