ある部屋の風景





 タローがそっと部屋の中をのぞきこんだとき、久木はベッドの上で大の字になって寝ていた。
 部屋の中はお日様のひかりが入って、天井からつりさげられたモビールの影が、ゆらゆら床にうつっている。
 おもしろそうだなと思ったタローは、思いきって部屋の中へ入りこんだ。人間だったら足のふみばもないほど書類や本やマンガがちらばった床を、音をたてないようにしんちょうに歩く。

「や、タローじゃないか」

 そんなタローの気くばりをふきとばすように、頭上から声がふってきた。
 見あげると、長い円すい形のぼうしをかぶった小人さん(なまえはサブローという)が、たなの上から見おろしていた。

「こんにちは、サブローさん」

 タローは立ち止まって、小人さんにあいさつした。
 小人さんはうなずいて、ぴょんとたなの上からとびおりる。タローのとなりに立つと、少しだけ小人さんのほうが背が高い。
 タローはにこにこと笑いながら、小人さんに体をすりつけた。小人さんは小さな手でタローの頭をなでてくれた。

「こんなところに、どうしたんだい?」

 小人さんが尋ねる。

「どんなところかなと思って」

 タローは素直に答えた。小人さんはにっこりと笑って、もう一度タローの頭をなでてくれた。
 タローくらいの子猫の心がどれだけ未知のものへの関心であふれているか、小人さんはちゃんと知っていた。
 タローは嬉しくてのどを鳴らした。
 日はぽかぽかと暖かく、映し出される影は優しくゆらめいている。
 タローと小人さんの影は、ちらばった本の上にうすく伸びて、不思議な形になっていた。
 うららかな午後を知らぬは、大の字で眠る久木ばかりである。


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