光る実の話





 ナギは変な事ばかり言う。
 この時期、木は「光る実」をつけるというのだ。
 4月には、「燃える木」があると言っていた。
 よくよく聞いてみれば、どうやらそれはデイゴの木のことらしい。
 初夏、デイゴの木は葉を落とした枝に真っ赤な花をつける。あの木の不思議なところは(もっとも、僕が知らないだけであの木に限らないのかもしれないが)、花を咲かせる枝だけが葉を落とすことだ。木のこちら側の枝では落葉して火のように真っ赤な花が咲いているのに、木の反対側の枝では緑色の大きな葉っぱが青々と茂っている。ナギにはそれが、木が燃えて葉が焼け落ちたように見えるらしいのだ。
 なるほど、言われてみればそう見えないこともない。
 朱色と赤色と強烈な日差しで構成されたあの鮮やかな花を、僕は美しいと思う。だから、ナギのようになんだか悲しい見方をするなんて思いつきもしなかった。けれども、ナギは火に燃える木を悲しいとは言わない。あれは強さだ。デイゴの木の。そしてナギの。

 そのナギが今度は「光る実」の話をする。この時期、木は「光る実」をつけるのだと。
 適当な相槌を打ちながら、僕は視線を彷徨わせた。クリスマスが近い街は、どこもかしこもイルミネーションで溢れている。ふと思いついて、僕は電飾がぐるぐる巻きつけられた1本の木を指差した。

「つまり、あれだろ?『光る実』ってやつは」

 ナギは同じように立ち止まって木を見上げ、それから首を振った。

「違う。あれは電飾が巻きついただけだろ」
「違うのか」
「や、正解といえば正解なんだが…」

 説明しにくいのか、ナギは眉を寄せたてしばらく考えていたが、やがて「見た方が早いか」と僕を促して歩き始めた。

「おい、どこまで行くんだよ」
「もうすぐだよ。ほら、あっち。アレね」

 ナギがそう言って指差したのは、ナギの家の近くに生えた木だった。以前ナギが柿の木だと教えてくれたその木は、すっかり葉が落ちていて、小さな仄かな赤や青や緑色の明かりが枝の間に灯っている。

「結局は電飾だろ?」
「そりゃあ、そうなんだけど。あの木はなんか、電飾が巻きついてるっていうより、実が生ってるみたいじゃね?」

 ナギはそう言って笑う。
 完全に主観の問題だ。けれども確かに、その慎ましい明かりは、外から電飾を巻きつけられたというよりも、木の一部のように見えた。

「まあ、そう見えないこともないかな…いや、やっぱり見えないような…うーん」
「お前、そういうときは頷いとけよ!」

 後ろから叩かれた頭をなでながら、僕はちらりとナギを見やった。
 もしかすると彼には、この世界が僕とはまったく違った風に見えるのだろうか。もしもそうだとすれば、その話が聞くことができるのは幸運なことなのだろう。
 街にはますますイルミネーションが増えて行く。あの「光る実」をつけた柿の木も、やがてその中に溶け込むだろう。



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[090118/一部改編]