十五夜によせて




3編のうち1



月には兎が住むという。
遥か遠くの衛星で、兎は薬を搗くという。
アポロが月へ降りた時、兎は何処へ消えたやら。
動物園の檻の中、逃げ込んだのでもないだろう。
小学校の飼育小屋、紛れ込んでもないだろう。
もしやドラッグストアの薬剤師、こっそり就職したかしら。

月には兎が住むという。
兎は何処へ消えたやら。
お月様を眺めれば、疑問が胸に浮かびます。





3編のうち2



月見をしようと言い出したのは誰だったか。
蓮の葉の上、3匹で月を見上げる。
―ゲゲゲゲゲゲゲゲ
〈お月様って不思議だな。だって、細くて鋭い三日月が、まんまる満月になるんだもん。〉
―ゲロゲロゲロゲロ
〈まるで僕たちカエルみたい。満月がカエルで、おたまじゃくしは三日月だね。〉
―ギギギギギギギギ
〈すると今日のお月様は、手足が生えて、そろそろしっぽが引っ込む頃かな。〉
―ゲゲゲゲゲゲゲゲ
―ギギギギギギギギ
―ゲロゲロゲロゲロ
〈もうすぐだね。〉
〈もうすぐだよ。〉
〈もうすぐさ。〉





3編のうち3



病室からは見えないわ。
そう、彼女がぽつりと呟いた。
ぼんやりと前の車のナンバーの辺りをさまよっていた視線を、助手席の彼女に移す。
彼女は無言でフロントガラスのさらに向こうを指差した。
彼女の指差した先、赤信号の車用信号機があり、その裏の少し上に丸い月がかかっている。
ああ、今日は満月だったのか。
信号のランプが赤から青に変わるのを視界の端の認めながら、漠然と考える。
もしかすると、彼女と月を見るのは、これが最後ではないかと。



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