金魚の話





 ぱしゃりと、水のはねる音がした。
 見やった金魚鉢の中には、一昨年の夏、祭りの金魚掬いで取ってきた金魚が涼しげに泳いでいる。


金魚ってけっこう生きるんだな。


 一緒に金魚を掬った友人は、この家に来る度にそう言う。
 確かに、金魚掬いの金魚なんて、翌日には死んでしまうと思っていた。
 けれども、戯れに「鯉」と名付けたこの金魚は、翌日に死んでしまうこともなく、我が家で二度目の夏を迎えようとしている。
 体はずいぶん大きくなって、鮮やかなオレンジ色だった体色は薄い黄色のような色合いになった。

 もしかして、このまま鯉のようになるのではないか。
 鯉の滝登りのように金魚鉢を飛び出て、天に昇ってしまうのではないか。
 鯉は龍になる。
 では、金魚はどうなるのだろう。
 滝を登るように金魚鉢から飛び出した金魚も、龍になるのだろうか。
 馬鹿げた心配だとは分かっているけれども。
 もう少し大きな金魚鉢を買ったほうが良いかも知れない。

 俺のそんな心配をよそに、友人は隣でのん気に今年の祭りの話をしている。


な、今年は黒の出目金取ろうぜ。で、「鮒」って名前にしよう。


ああ、そうだな。そして、二匹が入るような大きな水槽を買おう。




 そろそろ、蝉が鳴き始める。



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