故郷の話





 芝生の色が目に鮮やかだ。

 パステルカラーの緑に塗りつぶされた緩やかな傾斜、その中に、細く一筋の獣道がある。

 白く乾いた土が、緑色の空に浮かぶ飛行機雲みたいだ。

 だとすると、ところどころに集まって咲いたシロツメクサやムラサキカタバミは色とりどりの雲だろうか。




 日差しは穏やかだ。

 夏のような厳しさは無い。



 木陰で、ごろりと横になる。

 淡い緑色の葉の透き間から差し込む日差しに、わずかに目を細めた。

 葉の淵が白く光っている。

 そこだけ鋭利な刃物で切り抜いたようだ。



 空は青ではなく、白だったのか。





 ここはなんだか、懐かしい匂いがする。

 初めて来た場所なのに、どうしてこんなにも懐かしいのだろう。

 遠くから、子供の笑い声が聞こえる。

 シロツメクサを摘んで、花輪を作っているのかもしれない。




 ああ、そうだ。ここはあの場所に似ている。





 子供の頃、仲間達と遊んだ場所。

 この時期になれば、あの場所もこうして鮮やかに色づいた。



 子供達の笑い声。



 足音。



 花の香り。



 草いきれ。



 目を瞑れば、雨に濡れた土の匂いさえも思い出せる。




 今はもう水底へ消えてしまった故郷を、どうしようもなく懐かしく思った。

 不覚にも涙ぐんでしまったのは、木の葉の間から漏れる木漏れ日があまりにも眩しかったからに違いない。



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